Sony FX3で撮影されたフレーム数の異なる映像が2パターン記録されていたSDカードに復元成功した事例です。当初は物理障害の可能性も疑われましたが、最終的には論理障害であったことが判明しました。つまり、カードの故障ではなく、「データが壊れた」状態でした。
- 媒体:Sony SF-G128T SDXC/SDHC UHS-II SDメモリーカード「タフ仕様」128GB
- カメラ:Sony FX3
- ムービーはMP4形式(24fpsと60fpsが混在)
- ファイルシステムはexFAT
- ディレクトリ・エントリ:データ解析により破損が判明
- ファイル・アロケーション・テーブル(FAT):データ解析により消滅が判明
カメラマンさんご本人曰く、何日間にも及ぶ海外ロケの映像が無くなってしまい、尋常ではないパニック状態に陥り、復旧ソフトのこともネットで調べて実際に試し、復旧業者に何社も相談し、知り合いやSNSも通じてウソや過剰な宣伝をしない、本当に信用できるデータ復旧のプロを1週間ほぼ寝ずに探し続けたそうです。そしてデータ復旧業界のなかでもアイフォレンセ日本データ復旧研究所を推薦する同業者が多いことが分かり、調査を依頼することに決めたとのことでした。ただし、ご持参されるまで「Googleクチコミが極端に少ない」点が気になっていたそうです。
異なるフレームレート(fps)動画が混在
この事例は、とある海外リゾートホテルのWEB用に撮影された4K映像で、モデルありのシーンを24fps、施設案内やルーム設備は60fpsで撮影し、スタッフや関係者とカメラで都度プレビューしながら確認を行い、帰国後にスタジオでSDカードのデータが読めないことに気が付かれたとのことでした。
以下にファイルシステムのデータ異常について説明が続きますが、フレームレートが異なる動画が混在していた点も、復元を困難にする要因でした。
SDカードのファイルシステム破損・異常
次の2画像は、ディレクトリ・エントリがあるはずの位置の情報が破損して異常になっているものと、正常なSDカードのディレクトリ・エントリを比較したものです。見た目が違うことがお分かりいただけると思います。ファイルシステム解析をされる方は、ぜひバイトオフセット値をご覧ください。ともにルートディレクトリの位置です。
SDカードのファイルシステム消滅
つづいて以下の2画像は、FATの位置を異常なSDカードと、正常なSDカードとで比較しています。ここでは明らかに異常なSDカードの方は、バイナリデータが全てゼロになってしまい、情報が消滅していることが分かります。いずれもFATが始まるバイナリ領域です。なお、FAT32とはことなりexFATの場合はFAT情報が1セットしかありませんので、ここが消滅してしまうと、一発アウトです。
初期診断によって判明した事項は、主には上記のとおりでした。データ復旧ソフトでは絶対に復元できない動画データを復活させる必要があることが確定しました。しかも撮影を依頼したクライアントへの納品予定日もかなりせまっていました。こうした状況においては、まず1つの動画ファイルの復元をめざします。しかし、何の手がかりも無い128GBのデータ領域のなかから、特定の動画ファイルの要素(ファイルを構成する複数のフラグメント・断片)を手探りで見つけるのは容易ではありません。でも、まずは1つ目の動画をクリアできなけば、残りのデータを復元できませんので、ここは残り時間も見据えながら適切に判断をしてゆくしかありません。
プロキシ動画を記録するカードは動画ファイルがさらに断片化しやすい
ところでカメラによってはプロキシ動画が自動的にカードに記録されることがあり、そうするとその分だけファイルの断片化率も高まります。動画復元は基本的には「断片の検出とそれのつなぎ合わせ」です。そのため断片化数が多くて複雑なほど解析時間が長くなります。日単位で長期化しますので、お客様側での納品日や状況報告などの調整にも影響します。ですが、本件ではXMLファイルが動画撮影の都度カードに出力されるのみでしたので、この点は時間短縮には良い材料でした。
そしてまず、そもそも映像データが残存しているのかどうかを調べます。カードにあるバイナリデータの残存量を計測し、カメラマンの撮影ノートや記憶と照合することによって、必要な充分なデータ量がそもそもあるのかどうかを判断します。ここで相違が大きければ、断念していただくしかありませんが、幸いバイナリデータの残存量から出した値は、カメラマンが提示した撮影データ量とぴったり合いました。
4KのMP4ファイルが完全に復活
次は、いよいよ動画の復元にむけたデータ解析です。このカメラでは撮影データは必ず断片化を起こすことが過去の解析経験から分かっていますので、そのサイズや配置などを徹底的な解析で調べます。ここでの検出結果が1バイトでもズレてしまうと、あとで結合しても再生できないゴミファイルになってしまいます。そのため、同じような処理をパラメータを変えながら何度も繰り返します。こうしたプロセスをへて、ファイルを構成するための、いわば部品を揃えます。
ところが、その部品を組み合わせるための組立図がありません。本来それはディレクトリ・エントリとFATが担う役割です。ここはまさにテクニックで進めることになります。そして、組み合わせがうまくゆけば、動画ファイルとして無事に再生されることになります。これで復元アルゴリズムの解明ができたことになり、やっと1つめの動画の復元に成功ということになります。この後は、いかに早く、しかも多くのファイルを復元できるか、がテーマになります。
最終的に本件は無事に全ての映像を救出することができました。音声は別機材で録音されていたとのことでしたので、たとえ復活しなくても大丈夫とのことでしたが、各MP4ファイルがもつサウンドトラックも含めて見事「完全復元」となりました。