電子計算機損壊等業務妨害のフォレンジックとデジタル証拠

退職した社員が、まだ辞める前に会社のファイルサーバにアクセスして、保存してあったファイルやフォルダを消してしまっていた。あるいは、すでに退職した元従業員が、不正にリモートアクセスし、遠隔操作によって会社の重要な機密情報を削除されてしまった。他にも、不正が疑われた社員に、貸与パソコンの返却・提出を命じたところ、あったはずの関連ファイルが消されていたり、工場出荷時の状態に初期化リセットされてしまうこともあります。

このような不正行為は、電子計算機損壊等業務妨害に問われ、刑事罰の対象になることがあります。刑法では電子計算機損壊等業務妨害は、次のように規定されています。

刑法234条の2
人の業務に使用する電子計算機若しくはその用に供する電磁的記録を損壊し、若しくは人の業務に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与え、又はその他の方法により、電子計算機に使用目的に沿うべき動作をさせず、又は使用目的に反する動作をさせて、人の業務を妨害した者は、五年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
2 前項の罪の未遂は、罰する。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=140AC0000000045

さて、このページでは、「電磁的記録の損壊」に該当する事象として、会社のパソコンやファイルサーバのファイルが、不正に消された場合を想定して解説します。また、消去という言葉は、技術的には実はあいまいさを含んでいて、公的な文書等でも削除と抹消は使い分けられています。そこで、このページでは、復元の可能性を基準として次のように用いることとします。まず削除は、復元可能な消去とします。次に抹消を、復元できない消去とします。そしてこれら2つをあわせて消去と呼ぶことにします。

※尚、このページでの消去・削除・抹消の定義を、そのままデジタル証拠の解説等に転用してしまうことがないようご注意ください。いずれの言葉も状況に応じて意味や定義が変わることがあるためです。これについては、別途改めて解説ページを用意します。

電子計算機損壊等業務妨害罪の罰則

刑法234条の2

五年以下の懲役又は百万円以下の罰金

電子計算機損壊等業務妨害のデジタル証拠

フォレンジック調査のポイントは、次のデジタル証拠を見つけることになります。

  • 電磁的記録の損壊。損壊の経緯および損壊後の状態。損壊を認める根拠
  • 虚偽の情報、もしくは不正な指令の内容や、その操作や処理の経緯。虚偽性を認める根拠。
  • 電子計算機の使用目的と、使用目的に反する動作の内容。
  • 業務妨害の状況、経緯、程度、および内容

削除データのフォレンジック

消されたファイルを復元することによって、ファイルそのものがデジタル証拠になります。フォルダやファイルは削除されてからでも、丸ごと復元できることがあります。また、ファイル名やフォルダ名は元通りに復元できなくても、ファイルそのものだけは復元できることもあります。

ところで、データ復旧用のフリーソフトや市販ツールなどもありますが、懲戒・解雇処分や訴訟の可能性がある場合には、できる限り使わないことをご検討ください。データ復元ソフトを用いていらっしゃる組織内のIT部門やパソコンサポート事業者さんも同様です。後になって「やっぱり裁判したい」と思いなおしても、証拠として使えなくなったり、失敗すると証拠が消滅するリスクがあるからです。また、すでにソフトを試したけれどうまく復元できなかった、というご経験のある方は、もう手を加えずにご相談下さい。ソフトの復元に限界があることは、こちらのページで詳しく説明してありますので、それ以上の証拠を見つけるためには、当社のデジタルフォレンジック調査をご検討下さい。

抹消データのフォレンジック

ファイルやフォルダが抹消されている場合には、それらを復元することはできません。だからといってあきらめるのはまだ早いです。まだ、消されたファイルやフォルダの名称を解明できる可能性があります。それらのファイルが、いつまで存在していたかを調べることもできます。加えて、ファイルが消された日時を秒単位まで明らかにできることもあります。

ここで少し捉え方を変えます。復元可能な削除ではなく、あえて抹消が選択されている場合、その悪質性がより高いものと認められることがあります。当社で、ある殺人事件の被疑者が使用していたパソコンを解析した結果、データの消去経緯として削除ではなく抹消が選択されていた痕跡が見つかったことがあります。このことを警察の捜査員に伝えると、改めて検察から追加説明を求められ、そのデジタル証拠は「悪質性がより高いことを示している」と判断されることになりました。この事件のときのように、抹消であること自体が何らかの証拠になることもあるということです。

なお、抹消は珍しいことではなくなりつつあります。企業内で生じるデータ消去事案でも抹消は見かけます。不正を行った人からすれば、証拠が無ければ罪に問われないはず、と期待されるかもしれませんが、その証拠隠滅行為と意図が明らかになれば、電子計算機損壊等業務妨害罪に問われるかもしれず、有罪となれば、刑事罰です。それとは反対に、不正の意図はなかったにも関わらず、データ抹消をもって不正を疑われている方、もしくは代理人の方がこのページをお読みかもしれません。そうした状況であっても、当社のデジタルフォレンジック調査によって、不正がなかったことを示すデジタル証拠を発見できるかもしれません。

デジタル証拠は必ずしも不正を確定させるためのものではありません。疑いを晴らすための証拠になることもあります。

消去データ解析の日本トップクラスの専門家です

情報セキュリティ確保のため、データを消すことを専門にしている方々や企業が存在します。当社ではそうしたデータ消去の専門家が作った消去ソフトウェアの性能評価を行っています。現在、日本国内ではADEC(データ適正消去実行協議会)がデータ消去の業界で中心的な役割を果たしており、主要なパソコンメーカーのほぼ全てが、ADEC認証を得てデータ消去機能を自社製品に搭載しています。そして、当社はこのページ作成時(2023年9月)において、認証を受けた全メーカーの消去機能を検証しています。消去データの検証には高度な解析技術が求められるため世界的にみてもエンジニア数は限られています。そして当社は日本において、No.1の実績を誇っています。

消されたデータのデジタル証拠が見つかる場合

データが消去された経緯や日時が特定できれば、あとは出退勤記録や、入退室者を撮影したセキュリティカメラの映像との照合です。そうして他の証拠との関連性が明らかになることによって、デジタル証拠としての力はより強くなるでしょう。こうした状況において、相談者(社)さんや弁護士の先生方が、「デジタル証拠」をどのように解釈すべきなのか、分からない、とおっしゃられることも珍しくありません。そういったご質問には全てお答えしますので、どうぞお気兼ねなくご相談ください。むしろご説明なしで解析結果をご覧いただくだけでは、せっかくの証拠が活用されずに放置されてしまうかもしれません。弁護士が用意する書面の文書チェックも承りますので、ご安心ください。

さて、別の事件では、ある社員Aが同僚Bさんに対する嫌がらせ目的で、職場で最も重要なエクセルファイルを削除した、ということがありました。社員Aはデータが消滅したことを、その同僚Bのせいにして、自分は無関係であると主張しました。後日、当社には嫌がらせを受けた同僚Bさんがパソコンを持ってお越しになられました。状況も伺いましたが、とにかくあらぬ疑いをかけられて悔しい、けれど証拠がないので、どうにもできない、と怒りのやり場もなく、途方に暮れていらっしゃいました。そしてパソコンのデジタルフォレンジック解析を実施したところ、そのファイルが初めて作成された2年前の日時が特定され、その後100回以上あった日々の更新履歴も判明し、最終的にファイルをごみ箱に捨てた日時と、ごみ箱を空にした日時を秒単位まで明らかにしました。当該ファイルの生成から消失までの経緯が把握できましたので、これを会社側に報告したところ、取締役会の指示により全社員の出勤履歴と社屋に設置された防犯カメラの映像と照合されることになりました。その結果、削除のタイミングで会社に出勤していたのは、社員Aだったことが特定さました。これで形勢逆転です。その後Bさんとは何度かお話ししましたが、初対面のときの落ち込みはなく、明るく「本当に調査を頼んで良かったです」とすっきりされておられました。

電子計算機損壊等業務妨害の被害に遭われた企業の方へ

当社へのご相談が多いのは、不正に会社のデータを持ち出され、しかも不正の証拠になるデータが消されている、という被害です。こうした被害にあった場合、会社としては民事での損害賠償請求に加え、刑事罰も求めることを検討されるかと存じます。すると次は、事件を担当する弁護士が、どのような法律の違反や罪を主張して訴訟してゆくかの方針を固め、それに必要な証拠を揃えていくことになると思われます。このとき電子計算機損壊等業務妨害の証拠として重要な役割を担うのがデジタル証拠です。「消えたデータを復元したもの」だけが証拠ではありません。人の行為、操作履歴、意図、タイミングといった情報をデジタルデータから読み取り、なぜそのように解釈できるのかを正しく解説した資料も証拠になります。これらはテンプレート方式の解析サービスでは提供されないものです。

先述の通り、完全にデータが消滅したかのように見える抹消状態であったとしても、それすら証拠にできることもあります。実際に当社から刑事と民事で証拠提出していますし、社内規定違反による懲戒解雇の証拠としても用いられています。証拠隠滅行為は、よくあることでありながら、それに応じた解析をしなければ、見落とされかねません。

また、デジタルデータの何がどう見つかれば、電子計算機損壊等業務妨害に該当するのかが、分かりにくいという疑問も多々あると思います。確かに不正に電磁的記録が損壊される状況は千差万別です。そのため、どのような事件も個別に状況を把握し、判断する必要があります。それぞれの事件に目を向け、お客様の損害や被害の証拠を掴み出し、まずは弁護士にもそれが何故証拠なのかをご理解いただき、そして裁判官に、そのデジタル証拠が何を語っているのかが伝わるように、説明も致します。

さいごに

コンピュータには詳しくない経営者の方。そして、パソコンが得意でない弁護士の方にも、デジタル証拠についてご説明を承りますので、被害の証拠が必要なときは、どうぞご遠慮なくお問い合わせ下さい。

なお、このページは弁護士ではないデジタルフォレンジックスの専門家が作成したものです。記載内容に法的な解釈および説明として誤っている箇所があることを否定しきれません。もしそのような箇所を見つけられました際には、ご指摘いただければありがたく存じます。直ちに修正するように致します。

不正調査における法的視点のフォレンジックとデジタル証拠(関連リンク)