
このページには、物理障害の生じたHDDからのデータ復旧に関する解説が書かれています。HDDの物理障害とは、落下や水没による視覚的に分かりやすい損傷もありますが、ご相談の多くは自然発生による動作不良です。「カツンカツン」というノッキング音や、「シャーシャー」「キュルキュル」といった異常音が聞こえることもありますし、逆に全く動作せず無音な故障というのもあります。このように特別な心当たりがないにも関わらず発生した故障によって、保存してあったデータにアクセスできなくなってしまうことも、決して珍しいことではありません。なお、HDDの物理障害はどのメーカーのでも起こりますが、実はメーカーやモデルごとに構造やファームウェアが異なり、データ復旧の難易度にも違いがあります。メーカによってデータ復旧の困難さに違いがあることは、物理障害対処を担うリカバリエンジニア達は身に染みて理解しています。これは弊社のエンジニアに限ったことではなく、その分野における世界的な共通認識です。
データ復旧業者「おすすめランキング」サイトの信憑性
ところが、ネットで復旧業者を探そうとすると、「他社の不可案件にも対応します。」とか「プラッタのスクラッチやダメージにも対応します。」などの説明が見つかると思います。さらにはデータ復旧業者のおすすめランキングサイトもありますので、たとえ故障の程度が重度であったとしても、全国のランキングで上位の業者であれば、データを復元できるように感じると思います。ところが、よくよく注意しなければ、後で後悔してもしきれない状況に遭遇してしまうことがあります。実はそういったランキングのあるサイトは広告として運営されている可能性があるからです。真実に反して操作された情報が掲載されているのであれば、それは本当のランキングではなく、優良との誤認を意図的に生じさせる目的で用意されたサイトといえるでしょう。
またランキングサイト会社は比較サイトの開設にあたり、候補となる業者に対して有料広告の案内を事前に送信することがあります。弊社にも打診が来ますので、どのサイトが広告サイトなのかを明確に把握できているものもあります。これまでに、そうしたランキングサイトの運営者に対して弊社の情報を削除してもらおうと連絡を取ったことがきっかけで、広告料金を支払っている復旧会社を上位ランクに表示するビジネスです、と打ち明けられたこともあります。ある運営者は、広告費を支払っているデータ復旧会社名まで開示してくれました。ある意味それはそれで誠実な対応ではありましたが、掲載有無の判断や順位の操作を「ビジネスとして仕方がない。」と主張もされましたので、やはり真実が反映されていないことを認識しての行為と理解しました。ほかにも景品表示法に違反しているサイトも存在するのではないでしょうか。
「プラッタダメージ対応可能」という謳い文句の注意点【弊社の特許技術】
次に「プラッタのダメージ対応」について。HDDの物理障害原因のうちプラッタダメージは最難関の部類になります。ただし、複数の記録面があるうちの1面だけがダメージを負っているのであれば、それ以外は復元できることがあります。この技術はある程度以上のエンジニアであれば実施可能ですので、「他社の不可案件に対応」という説明があったとしても間違いではありません。しかし、ダメージのある面からでもデータの復元が可能であると主張する業者は要注意です。なぜならばプラッタダメージのある面からのデータ復旧技術は弊社が特許(磁気ディスク及び磁気記憶装置の復旧方法|特許6108950|特許庁:J-PlatPat)を有しており、どの業者にも使用を許諾していないからです。その特許技術を用いない方法での対処であれば問題ありませんし、新たな技術の登場を否定するつもりもありませんが、原理的には他の方法が成立することは容易には想定し難いです。
上記の技術は、東日本大震災を機に関西大学との共同研究で開発され、当時は日経工業新聞の1面トップに掲載されたほどのものです。弊社にお越しいただければその記事を掲示していますのでご覧いただくことができます。また、日本のデータ復旧業界において、他のデータ復旧技術特許を有する企業は存在しますが、もしもプラッタダメージに関する説明をされたときには、特許番号の提示を求めるなど、説明内容の正確さについて確認をされることをお勧めします。なお、弊社にはHDDのファームウェアに関する特許(ハードディスクの動作を制御するための方法及びハードディスクドライブ|特許6398023|特許庁:J-PlatPat)もあり、物理障害におけるデータ復旧において最難関とされるプラッタダメージとファームウェア対処のいずれにおいても特許を有していることになります。
【復旧事例】他社で復旧不可と診断されたHDDからのデータ救出
このあとご紹介する成功事例は、「おすすめランキング上位によく見かけるデータ復旧会社」によって「復旧不可」と診断されたものです。さらには「他社が復元不可と診断した案件に対応します」という主旨の説明も行っているようです。ここまでお読みくださった方にはご理解いただけたかと存じますが、まず「おすすめランキング上位のデータ復旧会社」という情報自体、あてになりません。特にそれが有料広告や自作自演サイトであればなおさらです。弊社もときどきランキングに含まれてしまっていることがありますが、結局は広告料を支払った会社の比較対象として使われているだけです。とくに悪質性を感じるランキングを見かけたときには運営者に削除の依頼もしますが、無回答なことがほとんどです。前述のように回答が得られたケースはあまりありません。なお、当然ながら弊社はランキングサイトに広告料を支払ったことは一切ありません。誤った情報の流布に加担はしません。
ここで一点、誤解を避けるために補足します。ランキングサイトに掲載されているデータ復旧会社の全てが悪質ということではありません。誠実にサービスを提供している会社も含まれています。あくまでも問題なのは、ランキング情報が、広告料の支払いにより操作されていることと、それを知りながらお金を支払う復旧会社の存在であり、ランキングの根拠が乏しいにも関わらず、真実ではないことがあたかも正しいかのように誤認識させるからです。
さて、このページをお読みの方は、おそらく次のいずれかに当てはまるのではないでしょうか。
- はじめてデータ復旧業者を探している。
- 既に別の業者に依頼したけれど、復元できなかった。なので次のデータ復旧業者を探している。
- 既に別の業者に依頼したけれど、見積もりが高すぎた。なので次のデータ復旧業者を探している。
- 既に別の業者に依頼したけれど、信用できなかった。なので次のデータ復旧業者を探している。
- 情報収集目的。
このなかでも「2」に該当する場合は、技術的な観点からみると最も深刻な状況です。なぜなら、本来最も期待のもてる「最初の復元チャンス」を使い切っているからです。もしかすると「3」と「4」も見積段階で実は「最初の復元チャンス」を使ってしまっているかもしれませんので、注意は必要です。
ところで弊社のお客様のなかに、外科手術のスーパードクターがいらっしゃいます。その先生いわく、最初の1回目の手術は、患部に近道でアクセスできるけれども、2度目以降のリトライ手術では、同じルートを辿るわけにはいかず、より難易度が増す、とのことでした。先生が弊社にお越しになられたときに、物理障害HDDからのデータ復旧の工程をご説明したところ、「よく分かるわぁ。手術と一緒なんですね。」とおっしゃられました。まさにその通りなのです。
それと、データ復旧サービス業界では、難易度の高い案件を専門会社に外注することがよくあります。分かりやすいところでは、クリーンルーム設備のないデータ復旧サービス事業者さんは、HDDの開封措置を自社では行いません。状況に応じて専門会社に外注するのです。もちろん全数が外注の対象になるわけではありません。故障の程度があまりに重度であれば、クリーンルーム工程を経ることなく所有者に返却されることもあります。その場合「最初の復元チャンス」は消費されずに残ります。しかし、おすすめランキング入りするようなデータ復旧会社の多くは、クリーンルーム設備を自社に備えています。そうした背景もあり「難しそうだからHDDには手を付けずに復旧は無理と診断した。」という状況が少なくなりがちです。
このページをご覧の方のなかには、事前に別のデータ復旧サービスでHDDの開封措置が施されていることを理由に、受け付けを断られた方もいらっしゃることでしょう。あるいは追加料金の提示があったかもしれません。なぜそうなるかといえば「2」に該当する多くの場合においては、クリーンルームでのドライブ開封を伴う物理措置が施されてから診断結果が出ているからです。「3」と「4」も、もしかするとそうかもしれません。「最初の復元チャンス」が無いHDDからのデータ復旧は、どうしても難易度が高く、データ復旧に成功する可能性は下がりがちです。
1.最初の診断状況:複数社による開封作業の痕跡
データ復旧会社による作業が行われると、次の写真のように開封され、交換や調整などが行われることになります。ひとつは3.5インチ、もうひとつ2.5インチのハードディスクです。以下は弊社による作業痕跡ではありません。お客さまからドライブを受領した時点で、既に実施済みであった作業の痕跡を弊社が撮影したものです。


いずれのHDDもマジックペンで部品に番号が書き込まれていることが分かります。工場で製造されたHDDに手書きの文字が書き込まれることは滅多にありませんので、これらは事前に対処にあたったデータ復旧サービス会社によって書き込まれたものと考えて、まず間違いありません。次に確認することは最も重要です。それは部品の取り外しや交換などの作業が行われたかどうかのチェックです。これは慣れたエンジニアであれば簡単に判別できます。たとえばネジの締め付け具合であったり、部品の汚れ具合なども参考になります。
写真の2台は、どちらにも部品交換が行われた形跡がありました。一般的に「ヘッド交換」と呼ばれる作業が行われた痕のことです。より厳密には、ヘッドスタックアセンブリの取り外しと、再装着が行われた形跡のことになります。ただし、取り外し等が行われたとしても、ドナードライブから取り外した動作品を装着するような「ヘッド交換」自体は行われなかった可能性もあります。ドライブの目視確認だけでこのあたりを見極めるのは難しいところですが、お客様からのヒアリング内容も含めると、写真の2件は、いずれも「ヘッド交換」作業が最低1回は実施済みであり、かつその結果としてデータの復旧は不可と結論付けられたものでした。これらが確認できたことによって「最初の復元チャンス」は残されていないことが分かってしまいました。
さらに問題だったのが、上記の写真にはくっきりと写っていませんが、分解後の組み戻し作業が慎重に行われておらず、ネジが緩んでいたり、クリーンエア環境外で素手で扱われたかのような汚れも見つかりました。(※以下の写真は上記2台とは別個体のHDDですが、汚れやキズの視覚的に分かりやすいものとして載せています。本ページのいうデータ復旧に逆転成功した2個体を撮影したものではございません。ただし、これらも前述のおすすめデータ復旧会社による作業痕跡です。)


そのようなことが判明したことから、お客様には弊社のデータ復旧サービスをご利用いただいても、ご期待にお応えできない可能性が高い旨をご説明せざるを得ませんでした。しかし、どちらのご依頼者様からも、強く作業着手のご要望があったこともあり、通常の調査期間では完了しきれない可能性をご了承いただき、お受けすることになりました。なお、2点のHDDのうち1点は個人所有のもので、思い出の写真やムービーファイルの復元をご要望されてのご依頼でした。もう1点は法人所有のドライブでした。いずれも弊社がお預かりする前までに、それぞれ2社以上のデータ復旧サービスをご利用されていたとのことでした。
2.半年以上に及んだ復旧作業と成功の鍵
その後は弊社ラボ内での作業となりましたが、調査は極めて難航しました。それぞれが半年以上の作業期間を要し、数か月以上なにも良い進展が得られないような時期もありました。その間、お客様から進捗のお問い合わせをいただいても、「全く読めていません」とご回答することしかできませんでした。それでも、お客様も弊社も、ともにあきらめずに作業を継続した結果、なんとか良い結果に辿り着くことができました。いずれも100%の復元には到達できなかったのですが、予めお客さまから優先度の高いファイルに関する情報をヒアリングできていたため、HDDの特定領域に的を絞って復元に取り組んだことにより、ご期待に沿った成果を得ることができました。
このように文字で書くだけでは、本当にデータ復旧に成功したことをご確認いただくことができませんので、概要のみですがご説明いたします。まず上記2件のHDDは、いずれもヘッドクラッシュと呼ばれる現象により、ヘッドアセンブリ先端部のスライダに異物付着が確認され、かつ磁気ディスク表層部にもダメージが生じていました。本来であれば潤滑層などの働きにより、故障するまでのダメージが生じることはないはずですが、こればっかりは完全に防ぐことができないため、しばしばこのトラブルは発生します。そしてもしもスライダへの異物付着だけが原因であれば、その異物の除去や、ヘッドアセンブリごと交換するなどの対処によって、データを読み出せるようになるはずです。しかしながら、本件では磁気ディスク側にもダメージが生じており、かつ同心円状の溝ができるほどの肉眼でも見つけやすいダメージではありませんでした。磁気ディスクは当然ながら交換はできませんので、表層部に対する対処を行うしかありません。つまり、部品交換だけでは対処できない症状であったことを検知し、その対処を行い、かつその処理がうまくドライブ側に受け入れられたことが理由で、結果としてデータを復旧することができた事例だったのです。
データ復旧を依頼する際には、復元を望むファイルをお伝え下さい
ここで大切なことをひとつお伝えします。データ復旧サービスをご利用になられるときは、お客様が復元を望むファイルに関する情報を、復旧会社側に出来る限り正確に伝える方が良いはず、です。なぜならば、対応レベルの高いエンジニアは、ファイルを取捨選択しながら作業を進めることができるからです。弊社以外でも対応してくれる復旧会社はあると思います。逆に言いますと、優先度合の提示をしなければ不必要なデータのためにドライブの余力を使い果たしてしまい、それによって磁気ディスク表層部やファームウェアが再起不能なほど悪化してしまうこともあり、そうなってしまうと、データの読み出し処理は、そこでストップせざるを得ません。最後の余力を、大切なファイルのために有効に使うことができれば、その分欲しかったデータの復元が見込めます。しかしながら、最後の余力を不必要なファイルに無駄遣いしてしまえば、例え〇〇GBのデータが読み出せたとしても、そこには欲しいものは含まれないのです。
最後の望みを託す前に:まずはお問い合わせください
故障したハードディスクからのデータ復旧については、どのメーカー製のものでも当てはまることがこのページには書かれています。なかには診断開始の直後にデータの復元が不可能であると結論付けなければならないこともあります。あるいはこのページにあるように「最初の復元チャンス」を逃した場合でも、逆転劇が生まれることもあります。
なお、このページでは逆転成功の実例をご紹介していますが、弊社ならば高い確率で逆転成功を期待していただけるわけでもありません。ときにはご依頼いただくことをお勧めしない場合もあります。ですが、やはりあきらめるわけにはいかないデータもあると思いますので、もしも重要なデータが必要な状況でしたら、お問合せしてみてください。
お問い合わせいただくにあたり、水没や自然災害の被災時などを除き、現物のご送付は急がなくても大丈夫です。状況によってはNDAを締結し、弊社の技術情報を開示しながらの相談会(WEB会議方式もしくはご来社)などを経てからの受け付けになることもありますので、まずはお電話にてお問合せ下さい。
以上。